昨今の人材不足に対する医療機関における対応事例のご紹介
【①全国的な人材不足について】
前述のブログにも記載させていただいた通り、医療機関を取り巻く環境は急速に
厳しさを増しております。
その中で、人材確保の難航・離職増加による人材不足は医療機関のみならず、
様々な業種において大きな問題となっております。
下記は厚生労働省が示す「職業紹介事業の事業報告」になります。
当資料が示す通り、医師は約1%、看護師・准看護師は約23%と
紹介希望者数は減少傾向にあり、
医療需要が増大している昨今とは逆行した流れを辿っています。

※出典:厚生労働省 職業紹介事業の事業報告の集計結果について
医療機関において、人材不足及び人材確保に苦慮している職種として
特に代表的なものは“看護師”が挙げられます。
中医協が示す「医療従事者の需要に関する検討会(看護職員需給分科会)」では、
2025年における看護職員供給推計に関しては
175~182万人と見込まれるのに対し、
看護職員需要推計では
188~202万人と約13~27万人の乖離が生じる推計となっております。
※出典:厚生労働省 第11回看護職員需給分科会
(第11回看護職員需給分科会【資料2】看護職員需給とりまとめ概要)
また、看護師及び准看護師の有効求人倍率は全職業の平均有効求人倍率よりも
高くなっており、これらは看護師不足を顕著に表しています。

※出典:厚生労働省 第2回看護師等確保基本指針検討部会
【②人材不足への対応及び職員の負担軽減に係る取組事例】
前述のとおり、人材確保は困難な状況の中、人材不足により
医療現場の忙しさは増してしまい、今いる職員も疲弊して
更なる離職へと状況が悪化します。
また働き方改革への対応などもあり、昔のような無理ができない環境
になっているのも難しい状況を作っている要因の1つです。
このような状況の中で経営者は、採用強化をしつつ離職防止に努め、
これまで以上に柔軟かつ幅広い人材の起用が求められます。
そのような状況の中で、一部医療機関では人材の有効活用を実施するため、
「看護補助者(学生アルバイト等)の採用強化」や「リファラル制度の導入」、
「院内副業制度の活用」等、様々な施策を試みております。
本記事ではとある医療機関で実施されている人材の有効活用に係る
施策の一つとして、「院内副業制度」をご紹介します。

「院内副業制度」の導入により、
・部署内のタスクシェアリング、タスクシフトによる職員の負担軽減
・職種間の業務量平準化による職員の不満解消
・他職種の業務を担うことで、その職種の大変さや専門性の高さを実感でき、
チーム医療に必要な信頼関係が向上する
・時間外手当を支給することで、給与水準を高めたい職員のニーズにも合致する
・職員が自らの専門性や興味を活かしつつ、職種の垣根を越えた新しい分野に
参加することで医療従事者としてのモチベーションアップ
などが効果としてあげられます。
つまり、本業+αで働きたい職員と応援が必要な部署を繋ぐことで、
個人間のメリットだけではなく、職場環境の改善や組織全体も活性化されて、
チーム医療の強化や医療の質向上にも繋がります。
A医療機関の具体的な取組事例

上記のような取組により
病棟看護師の時間外勤務の減少及び削減、過度な負担の軽減を目指します。
その結果、心理的安全性が高まることで、病棟看護師の離職防止にも繋がります。
実施した他院において、以下のような声が職員から挙がっています。

またその他の効果としても、「院内副業制度」を活用し、
委託業務の内製化や派遣職員の削減などを実施することで、
費用圧縮による経営改善効果も期待できます。
こういった取り組みを実施し、院内職員に改善の姿勢を示すことで、
経営幹部に対する信頼向上・職員満足度向上にも繋がります。
離職防止の促進にあたっては重要な視点の1つです。
導入検討ステップとしては、
- 現状分析(業務量調査)
↓
- 副業可能な業務の選定
↓
- 就業規則、給与規定の整備
↓
- 試行期間を設け、試験運用
↓
- 定期的に評価を実施し、制度内容の見直しを実施
といった流れが想定されます。
【③取組事例の導入に係る懸念点】
「院内副業制度」を導入するにあたり、懸念点としては以下が挙げられます。
1.所属部署での勤務に支障がない取り組みとする。
→副務時間を固定枠で設定するなどを行い、勤務する職員及び
その所属部署への支障がない制度とすることが必要です。
本業に支障が出た場合、院内業務が円滑に遂行されない状態となり、
所属部署の負担及び離職者の増加に繋がる恐れがあります。
2.部署間を跨いだ業務となるため、職員への再教育が必要となる。
→所属部署と業務内容が全く異なる部署への勤務となった場合、職員への
再教育が必要になり、一時的に派遣先部署の負担が増加します。
そのため、所属部署と業務内容が似通っている派遣依頼先に限定する等
の施策は必要になります。
→所属部署での経験が活きる業務であれば再教育は不要であり、
派遣先部署の負担はなく、即戦力となるため、現場で働く職員の安心及び
負担軽減に繋がります。
(例:看護補助業務についてはセラピストを対象に募集をかける 等)
3.対象となる業務範囲を明確にすることが重要
→業務範囲を曖昧な線引きとした場合、
責任の所在が不明確・業務過多により本業に支障が出る等を理由に、
運用開始後に不満が出ることが予想されます。
業務範囲を明確に定めた上で、公募を実施することが
今回記載している取組を長期で実施するためには重要です。
4.副業による貢献度や成果の人事評価への反映
→評価基準を明文化し、全職員に周知する等の対応検討が必要となります。
(例:兼務経験をキャリアパス上で必須項目とする 等)
【④最後に】
医療機関を取り巻く環境は、今後も人材不足が避けられない状況
が続くと思われます。その中で、院内の人的資源を柔軟にかつ最大限活用する
「院内副業制度」等の取り組みは、職員の負担軽減のみならず、
離職防止・院内連携の強化等、多方面での効果が期待出来ます。
一方で、制度導入にあたっては、所属部署への影響考慮、対象職種及び
業務の明確化、人事評価制度の整備等、慎重な検討も必要不可欠です。
弊社では、各医療機関様との導入方針・対応範囲の協議、
現状分析(業務量調査)、従業規則・運用ルールの整備に係る協議、
試行期間前後における運用評価まで一連のご支援を実施いたします。
当制度の導入を検討しているが、実行までの進め方や部署間での調整に
苦慮されている医療機関様がございましたら、ご検討いただけますと幸いです。
※ご支援内容については、下記URLに概要を記載しております。詳細をお聞きしたい方は、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。
業務支援 - 業務支援内容 | 株式会社麻生 病院コンサルティング事業部
※上記は、筆者の個人的な見解であり、会社を代表する意見ではないことを申し添えます。
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