「救急医療現場における医療関係職種の在り方」~救急医療における働き方改革~ 第2弾

前回は「救急医療現場における医療関係職種の在り方」というテーマで、厚生労働省「救急医療現場における医療関係職種の在り方に関する検討会」での協議経緯をご紹介いたしました。今回は引き続き協議概要のご紹介と、今後の展望に関する筆者の考察について述べてまいります。

 

【目次】

 1.救急の場における看護師の配置に関して(2月24日掲載記事)

 2.救急救命士の積極的な登用について(今回掲載)

 3.まとめ・今後の展望に関する考察(今回掲載)

 

2.救急救命士の積極的な登用について

救急医療は、病院搬送前の現場での救急業務に始まり、救急外来における救急診療を経て、入院病棟における入院医療へと続きます。従前、病院前は救急救命士、病院への搬送後は医師や看護師を始めとする医療職種が主な業務を担ってきましたが、令和3年10月の救急救命士法改正に伴い、「病院前」から延長して「救急外来まで」救急救命士が救命処置を行うことが可能となりました(なお改正対象は「場」のみで、「対象者」と「行為」については変更なし)。当検討会ではこの法改正の効果について、アンケート調査による検証実施が議論されています。

 

救急救命士が実施する医療処置は、資格法制定当時から適宜見直されてきました。現在は、以下の33処置が規定されています。

【出典:第1回救急医療の現場における医療関係職種の在り方に関する検討会 資料1】
(平成4年指第17号「救急救命処置の範囲等について」改正:平成26年1月31日医政指発0131第1号 より)

 

なお上記範囲の拡大余地については「救急救命処置検討委員会」で継続検討されており、次の4行為の追加が検討されています。このことからも、救急医療の現場における救急救命士の役割の重要性は、今後ますます高まってくることと想定されます。

~現在、追加に向け検討されている4行為~

① 心肺停止に対するアドレナリンの投与等の包括指示化

② アナフィラキシーに対するアドレナリンの筋肉内投与

③ 気管切開チューブの事故抜去時にチューブの再挿入

④ 自動式人工呼吸器による人工呼吸

 

なお、医療機関で救急救命士の雇用を視野に入れる場合、日本救急医学会と日本臨床救急医学会の定めるガイドラインを参考にする必要があります。

~ガイドラインの概要(一部抜粋)~

①院内のメディカルコントロールを目的とした「救急救命士に関する委員会」の

 立ち上げ・院内における救急救命士の位置づけの明確化

②医療機関内での救急救命士の指導体制・教育体制の構築

③(上記33処置のうち一部※を救急救命士が実施するにあたり)

 都道府県メディカルコントロール協議会の認定を受けること    他
※都道府県メディカルコントロールの認定が必要な処置
 ・気管内チューブによる気道確保の実施

 ・ビデオ硬性挿管⽤喉頭鏡を⽤いた気管内チューブによる気道確保

 ・⼼肺機能停⽌患者に対する薬剤(エピネフリン)投与

 ・⼼肺機能停⽌前の重度傷病者に対する、乳酸リンゲル液を⽤いた静脈路確保及び輸液、⾎糖測定並びに低⾎糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与

 

当検討会では、当ガイドラインの内容をより明確化すべきという意見や、③がネックとなり救急救命士の登用が進んでいない所が多い、というような意見が挙がっています。いずれにせよ、救急医療で新たに活躍する役割の一つとして救急救命士を重要視する意見が多く、医師の働き方改革のためにも、積極的な登用を後押しすべく前向きな議論がなされています。

 

3.まとめ・今後の展望に関する考察

前回と今回の2回にわたり、救急医療現場における看護師配置と救急救命士登用の余地に関して、厚生労働省での協議経緯をご紹介してまいりました。

看護師配置については、救急外来における専門性の高い看護師の配置や看護配置基準の設定・要件化の可能性が示唆されており、また救急救命士登用については、新規雇用による現場負担軽減の可能性が示唆されております。

但し一口に多職種の配置・連携といっても、職員の確保・定着に苦慮されている病院様も多くおありかと存じます。タスクシフトを進める際には「医療職が専門的な業務により注力できる環境整備」を行った上で「必要な職員の確保」を検討しますが、この第一段階の環境整備によって職員のやりがいが高まり、結果として離職防止に繋がることもあります。救急外来においても、既存業務の中で他職種へ移管できる部分(連絡調整・管理業務等)が無いか洗い出した上で、必要に応じて看護補助者等の職員確保を進めるといった策をとることが望ましいと考えます。なお弊社では職員確保・離職防止のご支援もさせていただいておりますので、お困りの際は一度ご相談いただけますと幸いです。(こちらより弊社ご支援内容をご確認いただけます)

また救急救命士の登用にあたっては、上述のタスクシフトと通ずるものがありますが、既存救急業務の分担の明確化、委員会の設置、教育体制の確立等、一つずつ対応を進めることが望ましいと考えます。採用強化にあたっては、消防局の研修機関として病院の場を提供することも、一つの手法となるかもしれません。

以上、筆者私見ではありますが、ご検討材料の一つとしていただけますと幸いです。

 

【参考資料】

・「救急医療の現場における医療関係職種の在り方に関する検討会」(厚生労働省)

・医療機関に勤務する救急救命⼠の救急救命処置実施についてのガイドライン
(⼀般社団法⼈ ⽇本臨床救急医学会、⼀般社団法⼈ ⽇本救急医学会)

一覧に戻る

お電話・FAXでのお問合わせ