先日2月7日の中医協総会において、平成30年度診療報酬改定の答申書が示され、個別改定項目の点数および算定要件が明らかになりました。さらに、3月5日には、診療報酬改定に係る告示・通知が発出され、答申時点では不明だった施設基準等の詳細についても示されました。
今回の改定において、一般病棟入院基本料は再編・統合され、現行7対1および10対1は「急性期一般入院料」へと、13対1および15対1は「地域一般入院基本料」へと分けられました。
今回は、改定項目のうち「急性期一般入院料」についてご説明させて頂きます。
①入院料本体の再編・統合(現行7対1と10対1の中間評価の設定)
②重症度、医療・看護必要度について
①入院料本体の再編・統合
◆名称変更
・一般病棟入院基本料(7対1、10対1) ⇒ 急性期一般入院基本料
◆入院料の区分
入院料の区分は以下の通り7段階に設定されています。
【図1:入院料区分について】
・現行の7対1入院基本料と10対1入院基本料の間に、中間の評価として「急性期一般入院料2」
ならびに「急性期一般入院料3」を創設
・急性期一般入院料2および3は、後述する重症度、医療・看護必要度Ⅱによる評価が必要
◆経過措置(現行の7対1入院料)
・病棟群単位の届出、許可病床200床未満の病院における重症度、医療・看護必要度要件の緩和措置
⇒ 経過措置は廃止、平成30年9月30日までの間、急性期一般入院料2の算定が可能
・平成30年3月1日時点で7対1入院基本料を算定している病院および病棟群届出を行っている病院
⇒ 平成32年3月31日までの間、急性期一般入院料2および3の届出が可能
②重症度、医療・看護必要度について
◆評価方法の新設
・重症度、医療・看護必要度Ⅰ(従来通りのHファイルを用いた評価)
・重症度、医療・看護必要度Ⅱ(A項目・C項目:EFファイル、B項目:Hファイルを用いた評価)
※評価方法Ⅱを用いる場合、判定方法変更の届け出が必要
◆評価項目の見直し
・C項目開腹手術後の対象期間:5日間 ⇒ 4日間
◆評価基準の見直し
・(新設)A得点1点以上B得点3点以上かつ「B14 診療・療養上の指示が通じる」又は
「B15 危険行動」のどちらかに該当する患者
◆算出方法の変更
・1ヶ月単位での算出 ⇒ 3ヶ月単位での算出
・3ヶ月以内の1割以内の変動に対する措置 ⇒ 廃止
◆経過措置
・平成30年3月1日時点で7対1入院基本料を算定しており、許可病床数が200床未満の病院が
急性期一般入院料2または3を届け出る場合
⇒ 平成32年3月31日までの間、重症度、医療・看護必要度Ⅰによる評価が可能
・平成30年3月1日時点で7対1入院基本料を算定しており、許可病床数が200床未満の病院が
急性期一般入院料2を届け出る場合
⇒ 平成32年3月31日までの間、必要度Ⅰ:27.0%以上 必要度Ⅱ:22.0%以上を基準値とする。
・平成30年3月1日時点で7対1入院基本料を算定しており、許可病床数が200床未満の病院が
急性期一般入院料3を届け出る場合
⇒ 平成32年3月31日までの間、必要度Ⅰ:26.0%以上 必要度Ⅱ:21.0%以上を基準値とする。
判定基準見直し後の各入院料における要件は下図の通りです。
急性期一般入院料1では、旧要件と比較して5.0%の引き上げとなっています。急性期一般入院料4、5、および6についてもそれぞれ旧要件と比較して3.0%必要度が引き上げられることとなります。
【図2:急性期一般入院料の重症度、医療・看護必要度基準値】
弊社が保有する各病院のHファイルを用いて、新基準の重症度、医療・看護必要度(重症度、医療・看護必要度Ⅰ)を試算したところ、3.0%~4.0%程度の増加が見られました。患者構成によっては10%以上増加する病院もあるようです。新設された評価項目〔A1点、B3点(指示が通じるまたは危険行動を含む)〕の影響により、特に年齢層が高く、認知症を患う患者さんの多い病棟においては、該当患者数が大きく増加する傾向にあるようです。
本改定においては、現行の7対1入院基本料と10対1入院基本料の間に中間の評価が新設され、7対1病床と10対1との診療報酬上の影響は緩やかになりました。看護配置や必要度要件も緩和されたことにより、通年での看護師確保や必要度の維持に苦慮してきた病院については、看護師数の減少による一時的な傾斜配置や必要度の低下が緩和され、入院料の選択枝が広がりました。
今回、必要度基準値が更に引き上げられ、7対1(入院料1)の要件達成が益々厳しくなる病院もあるかと思われます。これまで同様に入院料1の維持に向け取組を行うのか、一時的もしくは常態的に入院料2や3に移行し病院機能を再編するのかなど、今後の病院運営を行う上での選択肢が拡がる改定となったのではないでしょうか。検討に際して、弊社が貴院のお役にたてれば幸いです。(ポジショニング分析に基づく事業戦略立案)
また、新たにEFファイルからA項目とC項目を評価するという方法が選択できるようになりました。包括範囲の医療行為を確実に登録(入力)することを踏まえ、作業負担がどの程度軽減されるのか、どの程度評価の精度が保たれるかなど、貴院にとってどちらの評価方法が適しているのかについても併せて検討が必要と思われます。
※ 上記は、筆者の個人的な見解であり、会社を代表する意見ではないことを申し添えます。
病院コンサルティング事業部 神崎
先日2月7日の中医協総会において、平成30年度診療報酬改定の答申書が示され、個別改定項目の点数が明らかになりました。
今回は、改定項目のうち「地域包括ケア病棟入院料」について触れたいと思います。
今回の改定において、地域包括ケア病棟入院料に関する内容は、主に以下の5点となります。
①入院料本体の再編・統合(2段階→4段階評価へ)
②在宅復帰率の定義の見直し
③救急・在宅等支援病床初期加算の見直し
④看護職員夜間配置加算の新設
⑤地域包括ケア病棟入院料の包括外項目の追加
それぞれの詳細については後述しますが、今回厳格化されたのは、現行の入院料2の点数が-20点(2,058点→2,038点)となったことと、在宅復帰率の分子から療養病棟・介護老人保健施設等が除外されたことの2点です。その他の改定内容は、在宅患者の受入れ等の診療実績のある病院に対する評価が手厚くなっている、という印象です。
①入院料本体の再編・統合
入院料本体の再編・統合イメージは、下図(図1)のとおりです。現入院料1が新入院料2に、現入院料2が新入院料4になります。上述のとおり、現入院料2(新入院料4)は減点されますが、現入院料1(新入院料2)は、点数の増減はありません。さらに、200床未満の場合は、実績部分が加算された入院料(新入院料1、3)が算定できるようになります。
実績部分を含めた施設基準の変更点は、下表(表1)に整理しています。
入院料1、3を算定するためには、表1の4~8を満たす必要があります。表1の5・6では、在宅患者の受入れ(サブアキュート)が求められており、7では、在宅医療の提供・地域医療機関との連携・介護サービスの提供が求められています。
②在宅復帰率の定義の見直し
在宅復帰率の定義は、下図(図2)のように見直されます。割合は7割のまま変更ありませんが、療養病棟・介護老人保健施設が分子から除外され、逆に有床診療所については、機能強化型のみの限定が外され介護サービス提供施設へと変更となりました。これまでの退院先の状況次第では、復帰率7割の基準を満たすことが難しくなる病院、逆に上昇する病院も出てくるのではないでしょうか。一度、自施設の状況を確認しておいた方が良いと思われます。
③救急・在宅等支援病床初期加算の見直し
地域包括ケア病棟入院料の救急・在宅等支援病床初期加算については、下図(図3)のように、一般病棟からと在宅からの患者受入れを分けて評価することになります。一般病棟からの受入れの評価は現行のままで、在宅から受入れた場合の評価が手厚くなります。
④看護職員夜間配置加算の新設
看護職員夜間配置加算の概要は、下表(表2)のとおりです。認知症に関するB項目該当患者が3割以上いる場合には、一般病棟のように看護職員夜間配置加算が算定できるようになります。
⑤地域包括ケア病棟入院料の包括外項目の追加
今回、地域包括ケア病棟入院料の包括外に追加される項目は、以下の2つです。
1. A250 薬剤総合評価調整加算 250点(退院時1回)
2. J042 腹膜灌流(1日につき)
薬剤総合評価調整加算は、前回改定で新設された項目で、6種類以上の内服薬が処方されている患者が、退院時に2種類以上減薬した場合に算定できる加算です。今回、加算の評価対象に地域包括ケア病棟が追加されました。
人工腎臓はすでに包括外となっていますが、今回新たに腹膜灌流も包括外となります。腎代替療法において、血液透析に比べて患者のQOLが高い、腹膜透析や腎移植を推進する流れに沿った改定といえます。
今回の改定の入院料に関する見直しの特徴は、全ての病棟区分の評価において「基本部分」と「実績評価」の組み合わせ方式に変わったことです。実績評価は、それぞれの病棟区分が今後の地域医療構想の実現に向けた取り組みの中で求められる機能を評価するものとなっています。急性期一般入院では「重症度」、療養では「医療区分」、地域包括では「在宅」、回復期では「リハビリ」。それぞれの領域で本来果たすべき機能を有し、しっかりとした体制で取組めている施設には診療報酬上の評価も付いてくるという構図です。
地域包括ケア病棟に求められる役割は、「在宅から受入れ在宅に帰す」となっていることが伺えます。しかしながら、多くの地域包括ケア病棟では、自院の転棟患者の受入れを中心とした運用をされているかと思います。
今後の制度改革の中でも在宅移行の方向性は変わらないと想定されますので、自院内の転棟が中心の施設では、在宅患者を受入れる体制作りを進めていくことが望ましいと考えられます。
※ 上記は、筆者の個人的な見解であり、会社を代表する意見ではないことを申し添えます。
病院コンサルティング事業部 宮川
診療報酬を適正に請求することは病院医事課職員の使命であろうと思われますし、医事課職員個々の意識の高さは大いにその成果に影響を及ぼすものと感じています。
しかしながら、意識やスキルの高い医事課職員であっても、情報不足や運用の不明瞭さから請求漏れや請求埋れ*が発生することも少なくありません。
算定漏れを把握するためには、カルテ等の記録物とレセプトデータを照らし合わせて調査することが最も正確な方法ですが、かなりの労力とスキルを必要とします。
そこで、いくつかのデータを照合し、自院の請求漏れ・埋れの傾向を把握し改善に繋げる管理方法をご紹介します。
■救急医療管理加算2 300点→ 加算1 900点へ
2014年診療報酬改定から、救急医療管理加算は加算1 900点と加算2 300点の2段階となりました。加算1には対象となる入院時の状態が示されています(表1)。
加算2においては「アからケまでに準ずる重篤な状態」とされていますが、病院や審査支払機関で判断基準が異なるケースもあります。また、2017年10月5日の診療報酬調査専門組織(入院医療等の調査・評価分科会)では、加算1の算定割合が減少している資料が提示されていました(図1)。
いくつかの医療機関の算定状況を拝見しますと、確かに加算2の算定が疑わしいケースがあるようでした。一方で、加算2で算定されている場合でも加算1に該当すると思われるケースが存在するのも事実です。
例えば、加算2が算定されているケースで、入院初日に ①酸素吸入が行われている ②輸血が行われている ③点滴が2,000ccを超えている このようなケースは、医師へ「呼吸不全は該当しませんか?」 「出血性ショックは該当しませんか?」 「重篤な脱水症は該当しませんか?」と確認され、病名の追加が必要あるかを確認することで、救急医療管理加算1の算定が可能となるケースもあります。
私どもである病院様にて調査させて頂いた結果、年間で20万点(200万円)程度の増収となったケースもあります。
■病院全体を巻き込んで算定漏れ・埋れをなくす
救急医療管理加算のケースでは、医事課職員が奮闘するのみでなく、医師や看護師の協力が必要です。いつ(どのタイミングで)、だれが(担当は)、どこで(救急外来か、病棟か)、なにを(判断基準は何か)を踏まえて運用を構築する必要があると思われます。
また、請求漏れは外来会計時や退院時に判明することが理想ですが、半期毎にDPCデータやレセプトデータ等を活用して、算定漏れ・埋れの傾向を把握し、運用の見直しや部署を超えた情報交換から、自院の診療報酬算定拡大を目指すことも大変有意義と考えます。
今回は、救急医療管理加算をご紹介しましたが、他の項目についても分析されると算定拡大の可能性が判明するかもしれません。病院職員、委託スタッフが一体となって、自院の余力を確認されてはいかがでしょうか。
※ 上記は、筆者の個人的な見解であり、会社を代表する意見ではないことを申し添えます。
病院コンサルティング事業部 安永
DPC/PDPS制度において、DPC係数を上げることが医業収益の増収に有効であることは周知の通りです。
DPC係数の中で、機能評価係数Ⅰを上げるためには、係数の対象となる届出項目の洗出しもしくはグレードアップが必要となり、現状レベルと要求レベルとのギャップを明らかにした上で、院内の人員計画・配置および体制を構築していくことが求められます(表1)。
【表1】 自院施設基準届出の見直し(例)(一般病床100床の場合)
機能評価係数Ⅱに関する自院の努力余地は、保険診療係数、効率性係数が焦点となりそうです(後発医薬品係数が機能評価係数Ⅰ「後発医薬品使用体制加算」への移行を想定)。後発医薬品係数が機能評価係数Ⅱから抜け、暫定調整係数分が振り分けられると、機能評価係数Ⅱの1項目毎のウエイトがアップすることとなり、上記2項目の係数に対しての自己努力が一層必要となってきます。では、この2項目についてどのような改善策が有効でしょうか。そこには診療情報管理士の活躍が大いに影響するように思われました。
保険診療係数は、DPCデータ提出においてより正確なデータの提出が必要となります。部位不明・詳細不明コードの使用割合(現状は使用割合20%以上にて当該評価を0.05点減算。2018年度改定では10%以上への変更が検討されている)を削減するためには医師との連携が必要です。既に多くの病院では医師への情報提供が行われ、どのような病名が部位不明・詳細不明であるかを踏まえて、詳細な病名の登録を依頼されていると思います。併せて診療科毎に部長と相談し、あらかじめルールを決めておくことも有効と思われます(表2)。確認事項の情報源はカルテやサマリーあるいは画像診断など検査報告書等が考えられます。少しでも迷うようなケースは担当医への確認が必要であり、病名変更後は医師の確認(ログを残すなど)も必要です。
【表2】 病名変更規定(例)
また、未コード化傷病名(現状は使用割合20%以上にて当該評価を0.05点減算。2018年度改定では2%以上への変更が検討されている)に対しては、病名登録自体をワープロ入力ではなく、リストから選択するシステムを講じる必要があります。この場合、医師からリストへの追加要請が発生しますが、ここでも診療情報管理士の活躍に期待できそうです。
DPC対象病院では概ねクリアされているのが現状とも思われますが、2018年診療報酬改定に向けて、今一度自院の使用割合を再確認されてはいかがでしょうか。
■ 副傷病がDPC効率性係数に影響 !?
次に効率性係数は、自院にて年間12症例以上ある包括対象となる診断群分類の在院日数を短縮すると改善する仕組みですが、在院日数を短縮すると病床稼働率が下がり空床を生じるというジレンマがあります。
新入院患者を増やすことはもとより、院内のDPC対象病床以外の病床をうまく活用する、もしくは病床再編成するなど、患者さんの状態を鑑みつつ転床(転棟)を取り入れる努力が必要となります。
効率性係数の改善に関しては、副傷病にも着目することが重要です。定義副傷病は入院時併存症と入院後発症病名(入院中の患者管理に影響を与えた病態)それぞれ10病名を登録することができます。いくつかの病院様の登録状況を拝見すると、入院時併存症および入院後発症病名があまり積極的に登録されていないケースが見受けられます。副傷病名の登録により、多くの場合1日当たりの包括設定点数の増加(入院期間Ⅰでは低下する場合があります)や入院期間Ⅱが延長となります。
下の図は、ある病院様のデータを元に「副傷病名あり・なし」の影響をシミュレーションしたものです。DPC診断群分類年間12症例以上、うち定義副傷病名が設定されているDPCコード84分類を対象として、「副傷病名なし」の場合と「副傷病名あり」の場合を請求差額と入院期間を比較したグラフです。
グラフは縦軸をDPC包括請求額と出来高請求額の差とし、横軸は入院期間Ⅱを"0"とした場合のDPCコード別平均在院日数としています。水色は「副傷病なし」、青色は「副傷病あり」です。
※前提として、「副傷病1あり」の影響を検討するためにDPCコードを変更。
この病院様は「副傷病なし」であってもDPC包括請求額が出来高請求額を上回っていましたが、在院日数は入院期間Ⅱを超えるケースがありました。このDPCコードが「副傷病あり」になると、入院期間Ⅱ超えが少なくなり(調査対象DPC分類数のうち入院期間Ⅱ超84項目中53項目63.1%から6項目7.1%へ減少)、DPC包括請求額と出来高請求額の差も好転する結果となりました(症例数と差額の合計:副傷病ありで358%アップ)。
効率性係数は相対評価であるため、定義副傷病による効果が効率性係数改善に繋がるとは断定出来ませんが、少なからず影響を及ぼすものと考えられます。
副傷病の情報は、支払いや入院期間に影響しない場合も診断群分類の精緻化や複雑性係数などの機能評価に影響すると言われています(「DPC研究班の今までの研究」伏見清秀)。部位不明・詳細不明コードおよび未コード化傷病名の精緻化と併せ、効率性係数改善のご参考になれば幸いです。
※ 上記は、筆者の個人的な見解であり、会社を代表する意見ではないことを申し添えます。
病院コンサルティング事業部 安永(診療情報管理士)
病院事業は、基本的に全国一律の診療報酬制度によって収益が定められており、制約の多い事業であると言えます。その制約の中で、「戦略的に投資活動を行うこと」が、収益と費用の適切なバランスを生みだしていくことに繋がります。
その考え方について、以下の通り、医師事務作業補助加算を例にとって述べます。
仮に病床数300床、1ヶ月当たりの新入院患者数650人を前提とした場合、医師事務作業補助者10人で30対1補助体制加算を算定することにより得られる年間収益は34,710千円です。同一の前提条件のもとで、医師事務作業補助者を2名増員し、25対1補助体制加算を算定した場合、本加算で得られる年間収益は41,340千円となり、年間6,630千円の増収が見込まれることになります。
また、直接的な収益メリットだけではなく、医師の業務負担軽減(または生産性向上)や、医師が患者さんに向き合って診察をすることで、患者さんの安心感が得られること等、波及的な効果も期待されます。
特に人的資源に対する投資は敬遠されがちですが、上述の例のように、「どのようなメリットがどの程度見込まれるのか」を見極めた上で、適切な投資判断を行っていくことが求められます。
※ 上記は、筆者の個人的な見解であり、会社を代表する意見ではないことを申し添えます。
病院コンサルティング事業部 重枝
前回のブログでも触れましたが、平成28年4月より7対1入院基本料の「重症度、医療・看護必要度」の基準が25%に引き上げられることが決定しました。7対1入院基本料に留まるべきか、10対1入院基本料に移行すべきか判断に迷うところです。今回の改定では、7対1入院基本料から10対1入院基本料への移行を促す内容(10対1入院基本料の看護必要度加算の増点、10対1病棟と7対1病棟の併設)が見られました。ただ、10対1入院基本料への移行を決断するには、少し物足りない感じがします。そのためか、顧客先の病院からも地域包括ケア病棟の導入についてご相談を受けるケースが増えています。
以下では、DPC対象病院が「重症度、医療・看護必要度」に該当しなくなった入院患者を地域包括ケア病棟に移す場合の試算を行っています。試算結果をご覧頂くと、リハビリスタッフの増員による職員給与の増加を考慮しても、採算性が良いことが分かります。
こうした採算性の良さを背景に、地域包括ケア病棟の導入を進める病院が増えてきていますが、地域包括ケア病棟の普及が進んだ段階での点数見直し(減点)や要件の厳格化には注意が必要です。
加えて、地域包括ケア病棟を上手く活用するには、特に地域包括ケア病棟に患者を送る医師の理解・協力が不可欠です。そのため、地域包括ケア病棟の導入を進めるにあたって、自院の地域における役割・今後の方向性を明確にするとともに、地域包括ケア病棟の対象患者・運用について現場としっかりと協議しておくことが重要となります。
※上記は、筆者の個人的な見解であり、会社を代表する意見ではないことを申し添えます。
病院コンサルティング事業部 次郎丸
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➣ 経営分析支援業務
➣ 経営計画策定支援業務 「ポジショニング分析に基づく事業戦略立案」
今回の改定において、大きく見直し(厳格化)が図られるものの一つが、「重症度、医療・看護必要度に関連する施設基準」です。
主な改定内容としては以下の通りです。
(7対1入院基本料の施設基準)
(10対1入院基本料算定病棟における看護必要度加算の施設基準)
この改定による減収を抑える、或いは増収を図ることを考えた場合、7対1入院基本料算定病院においては同入院料の届出維持が、10対1入院基本料算定病院おいては上位加算の届出が望まれます。
特に7対1入院基本料については、この基準を満たせなくなった場合、病院の経営を左右する程の減収(及び固定費比率の上昇)を伴う可能性があります。
平成28年9月30日までの経過措置は設定されているとはいえ、早急な対処が必要です。
重症度、医療・看護必要度の基準を満たす患者の割合を伸ばす手段としては、①基準を満たす患者数を増やす、②基準を満たさない患者数を減らす(計算対象から除く)の2つのみです。
優先検討すべきは①であり、まずは過去の実績から、基準を満たす患者がどのような経路(救急搬送、○○病院からの紹介等)で、どのような疾患で入院しているのか等の傾向を確認する必要があります。
その傾向を踏まえた上で、当該患者を確保するための対策(救急受入体制の強化、周辺医療機関との連携促進等)を検討することが必要です。
(※ただし、医師等の許容数や、他の施設基準(在宅復帰率等)に及ぼす影響への配慮も必要です。)
①の対処に限界がある場合、②の手段を検討することになります。これは病床の一部を他の病床機能に転換する考え方です。
病床機能の中でも、特に地域包括ケア病棟入院料(及び管理料)については、本稿の主旨である「一般病棟における重症度、医療・看護必要度」だけではなく、「病院全体の入院患者数や一日当たりの入院収入」という面においても経営的なメリットを享受できる可能性があります。
(※その根拠は本稿では割愛させて頂き、次回以降のブログで述べます。)
その一方で考慮すべきは「医師等の医療職員の反応」です。
急性期病院という位置づけ、いわばブランドの中で、使命感を持って医療行為をおこなっている職員にとっては、モチベーションの低下に繋がる要素となり得ます。
また医療職員の確保という面でも同様のことが言えます。
したがって、②の手段を検討する際は、病院全体での意思統一を図りつつ、慎重に検討を進めることが求められます。
今回の改定も、特に急性期病院にとっては、自院の運営における重要な方針判断、取捨選択を迫られるものとなります。
現状を鑑みる、将来を見据える良い機会であると捉え、前向きにご検討してみてはいかがでしょうか。
※ 上記は、筆者の個人的な見解であり、会社を代表する意見ではないことを申し添えます。
病院コンサルティング事業部 重枝
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➣ 経営分析支援業務
➣ 経営計画策定支援業務 「ポジショニング分析に基づく事業戦略立案」
2015年3月に新公立病院改革ガイドライン(以下「新ガイドライン」と記載。)が関係各所に通知されてから早くも1年が経過しました。
公立病院における改革プランの策定状況はいかがでしょうか。
今回のガイドラインには、「地域医療構想を踏まえた公立病院の役割の検討」という新たな考えが含まれています。
よって、各都道府県の地域医療構想の策定状況が気になるところではありますが、どの都道府県も構想の中身の明確化にはまだ至っていないようです。
この状況からすれば、公立病院改革プランの策定はこれから進めていく、という公立病院が多いのではないでしょうか。
さて、少子高齢化、社会保障費の問題を背景にして出てきた「地域医療構想」、この変化は近年で最も大きな変化のひとつと考えられます。
地域の医療需要が「見える化」され、病床機能の分化、病床数の減少も進むと予測されます。
新ガイドラインに基づき公立病院改革プランを作る、その際に最も重要となることは何でしょうか。
それは、地域の状況を適切に理解し、公立病院の果たすべき役割(どのようなかたちで地域貢献するか)を再定義していくことだと考えられます。
特に、建替えなどのイベントを踏まえた公立病院は、現状を前提とするのではなく、将来の変化を適切に見極め、行動することが必要です。
「競争」する観点から「連携」する観点に位置を変え、統合や再編の可能性も視野に含めながら検討を進めることが必要です。
ここで伝えたいことは、公立病院が必ずしも拡大路線をとる必要はなく、むしろ地域需要に応じた建物・体制を構築していくことが公立病院としての役割(地域への貢献)を果たすということです。
今後の公立病院の位置づけは、地域への貢献を第一に考えつつも(競争思考から脱却することが必要である一方)、経営面では健全性を求められる、難しいものとなります。
しかしながら、それが公立病院に求められていることです。
近年においては、DPC制度、病床機能報告制度などにより、地域の医療需要、供給体制が少しずつ「見える化」されてきました。
加えて、平成28年度は地域医療構想の策定も本格化するものと考えられます。
これらの状況を踏まえ、今一度、自院の位置づけ、役割、そして成り立つ病院像(現実味のあるもの)を策定していくことが、政策的、地域的観点から公立病院には求められています。
※ 上記は、筆者の個人的な見解であり、会社を代表する意見ではないことを申し添えます。
病院コンサルティング事業部 森
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➣ 経営計画策定支援業務「公立病院改革プラン策定支援」
今回の改定では、退院支援に関する評価が大きく見直されています。中でも注目されるのは、「退院支援加算」です。
退院支援加算は、現在の「退院調整加算」を改変したもので、算定要件や支援体制の違いによって3区分での評価が設定されました。概要は下表のとおりです(今回は一般病棟に着目し、NICUを対象とした退院支援加算3の説明は割愛いたします)。
退院支援加算1は、退院調整加算の施設基準を強化した新設項目で、一般病棟退院患者に退院支援を行った場合、退院時に600点を算定することができます。当該加算を算定する場合には、退院支援員の増員とともに、算定件数も増加し、収益的にはプラスの影響があると考えます(届出を行うかどうかは、自院の状況をよく確認した上での判断が必要となります)。
一方、退院支援加算2は、原則的には退院調整加算の施設基準と同様ですが、点数は従来の在院日数別の評価が廃止されました。在院日数14日以内の退院患者に対して退院支援を行ったとき、現在は340点算定できますが、新年度からは190点に減少します。
一見マイナスにも見える変化ですが、実際に医療機関がどのような影響を受けそうかを、簡単に試算しました。
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【試算の前提】
・ 7対1一般病床数400床、退院患者数1,000人/月の急性期病院で、
1ヶ月あたり50名の一般病棟退院患者に対して退院支援を行っている
・ 在院日数別の退院支援患者数が、以下の構成比である
→ 14日以内:15~30日:31日以上=16:17:17
【結果】
・ 退院支援加算2を算定した場合、退院調整加算と比較して若干の収益増の見込
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今回設定した前提条件下においては、退院支援加算2を算定した場合の改定による影響は若干のプラスとなりました。
実際に、弊社の顧客先における退院調整加算の算定状況を確認すると、在院日数15日以上の患者に対する算定件数が全体の60%~85%程度を占めているケースが多く、単純に算定項目が退院調整加算から退院支援加算2に変化しただけでは、収益面でマイナスの影響を受けることはないようでした。
退院支援加算2は、現行の退院調整加算との点数設定の差が大きく見えますが、現行体制を大幅に変更することなく、支援件数を増やすことができれば、収益的なメリットは十分に得られると考えられます(現状で在院日数14日以内の患者への退院支援件数が多い場合を除きます)。
したがって、今後、各医療機関の皆様にとっての課題は、「退院支援件数を増やすこと」と「算定件数を増やすためにどのような体制をとるか」となります。
退院支援加算1を届け出るためには、相応の体制をとることが必要とされます。現状よりも人員を増やすのであれば、当然退院支援の件数も増やすことが前提となります。病院は、現在の入院患者から退院支援件数の増加がどの程度見込まれるか、それが人員体制の強化(人件費の増加)に見合ったものなのかを確認し、届出の是非を検討する必要があるでしょう。
入院早期から在宅復帰に向けた支援を行うことは、患者のADL低下防止や院内感染リスク低減等の効果があると言われています。施設基準の厳しい退院支援加算1を算定することは、将来的に「医療の質の高さ」を示す指標の1つとして重要性が高まる可能性も否定できません。病院の状況を確認した上で、必要性が認められるようであれば、積極的に算定できる体制を整えることが望ましいのではないかと考えます。
※ 上記は、筆者の個人的な見解であり、会社を代表する意見ではないことを申し添えます。
病院コンサルティング事業部 海江田