Vol.32 病院で原価計算をやるべきか

「病院全体が大きな赤字なんで、診療科別に収支を計算してもどこも赤字に決まってるし、必要ないんじゃないの・・・」こんな話をよく耳にします。
収支改善は段階的なプロセスを踏んで初めて実現されるものであり、決して一朝一夕に黒字化が達成できるものでもありません。また、少しでも赤字幅を縮小していくために何をどうしたら良いのか、更には診療科や技術部門ではどうなのかといったことを、何のデータもない中で、具体的な対策を思い浮かべることができる方は院内にそうそう居ないでしょう。
例えば、総合的な急性期医療を提供する病院で、高額なインプラント材料を使用し、手技料の高い手術を多く行う「整形外科」と、外来診療中心に決して診療報酬上の評価も高いとは言えない「小児科」を考えてみて下さい。多くの病院においては、幹部スタッフや部長以上の方が集まる経営会議等において「収入が多いか少ないか、増えたか減ったか」という視点での議論が最優先されると思います。その時、前述の両診療科の評価は、収入が大きい整形外科の評価が高く、逆に収入がさほど多くない小児科の評価は低いといったケースもあり得るかもしれません。しかしながら、両診療科の収入と費用の差し引きの「利益」という視点から見ると、材料等をほとんど使用せず、また労働力もさほど要しない小児科は、実は利益率が非常に高く、逆に高額材料を多く使用し、高度な手技のためにヒトも時間も多く必要となる整形外科は赤字傾向にあるかもしれません。そうなると、病院全体の収支への貢献度の評価は逆転することになります。
しかしながら、医療というヒトの命を預かる病院においては、収入が多いから「良」、利益率が高いから「良」ということではなく、病院全体としての収支バランスを考えた、各部門単位での改善方針が必要と考えます。小児科であればやはり数(規模)の確保でしょうし、整形外科であれば、材料費の大幅な見直しの方か効果はより大きいかもしれません。

また、現在では、DPC分類による入院医療費の包括評価がはじまっており、改善の方向性はこのDPC分類毎等をカテゴリーとして検討していくことが必要です。同じ内科の患者さんでも、循環器系では高額な材料も使用しますし、整形外科の中でも分類によって費用構成は大きく異なると思われます。DPC分類をベースとしたクリティカルパスの再編や、それと連動した行為毎の原価把握の組み合わせ・仕組みづくりが求められます。医師も、そこまで見えるようになれば、自ら具体的な対応策のイメージをより掴みやすくなるかもしれません。結果的に各部署において抜本的な意識改革が自ずと生まれてくるでしょう。

院内で診療科別や部門別の収支傾向を提示した場合、多くの部門長から「この費用配分はどうなっているのか」「何故、うちの科でそんな費用が多く負担しなければならないか」という意見が噴出し、議論が全く先に進まないということがあります。これは、部門別の原価計算を作成することそのものが目的になってしまい、このツールに対する院内全体での認識の統一は勿論、このツールをどのように活用していくのかという本当の意味での「目的」が明確になっていないためと言えるでしょう。まずは、このあたりをしっかりとおさえていくことから始めるべきと考えます。また、費用配賦の粒度や配分基準の妥当性などについて、自信を持って説明することができるような事務管理能力を備えていくことが求められます。