Vol.27 これからの医療政策

2008年度も残り僅かになり、新年度が足音を立てて近づいています。2006年に成立した医療制度改革関連法案に係る医療構造改革も進んでおり、新年度の病院経営も予断を許さない状況です。時代の変化の流れがあまりに速いというのが率直な感想ですが、日本の医療はどう変わろうとしているのでしょうか。病院の経営に携わる当事者として、短期的な視点とともに、視野を中長期にも広げて日本の医療政策の方向性を考えてみました。

 短期的な医療政策の方向性を考察するために、厚生労働省の2009年度予算案を概観してみます。『安心で質の高い医療の確保』のために大きく以下の5つの課題に予算が充てられています。

  1. 医師等人材確保の推進:488億円(前年対比+29.4%)
  2. 地域で支える医療の推進:504億円(前年対比+35.8%)
  3. 医師等と患者・家族の協働の推進:4.9億円(前年対比+4.3%)
  4. 難病対策の一層の推進:1,587億円(前年対比+3.7%)
  5. 安定的で持続可能な医療保険制度運営の確保:9兆604億円(前年対比+5.1%) 

 来期大幅に予算が増額された課題は、医師や看護師という医療を直接担う人材の確保推進と、救急医療の充実や産科医療の確保といった地域医療の推進です。昨今は医師不足による産科の閉鎖や救急医療体制の不備等がマスコミから伝えられ、国民の医療に対する不安が増長しています。私も仕事柄多くの病院を訪問しますが、その際、医師や看護師等の医療人が、十分とは言えない人手を遣り繰りしながら、手術や救急等に対応されておられる姿を垣間見ます。また、忙しい業務の合間を縫ってお話を伺えば、医療に対する情熱を滔々と語ってくれますが、一方でその表情には疲労の色が伺えます。医療の担い手がこのような状況では、国民の医療に対する不安を払拭することはできません。医療体制の充実という政策が短期的施策で終わることなく、今後も続いてくれることを願ってやみません。

 それでは中長期的な医療政策の方向性はどうなっているのでしょうか。今年度、政府の社会保障国民会議は2025年時点の医療・介護費用の試算を公表しまし た。2025年には65歳以上の人口割合が30%という高齢化社会に達しています。医療・介護の重要性が一段と増している姿を想定して算出した医療・介護 費用は約91~94兆円と試算され、2007年度に計上された約41兆円の2倍以上という結果になりました。厚生労働省の来期予算案からも一目瞭然です が、日本の医療保険制度を支える費用は突出して大きく、将来的にも国民の負担増が避けられないとみられています。一方で、視点を変えれば、これは医療とい う市場の拡大を意味します。日本社会にとって、医療は21世紀の戦略分野に位置付けられると考えることも可能です。医療に携わる医師や看護師、医療機器などヒト、モノ、カネが手厚く投入されることになることは間違いありません。かつての医師養成数の抑制政策からすれば政策の大転換が進んでいるといえます。 但し、真の医療体制の充実と言えるためには、待遇改善などにも配慮した仕組みをいかに作り上げていくかが問われてきます。

  また、医療当事者にとっても、国 民の負担増を抑えるため、医療の技術革新への取り組みが今以上に重要になることを肝に銘じておく必要があると考えます。